私の職業奉仕(鹿児島西南RC・桒畑 茂隆)

所属クラブ:

氏名:桒畑 茂隆

日本茶の消費の要である急須での淹れ方は、平成27年総務省家計調査では、20歳代、30歳代では年間1000円以下であり、60歳代の4934円、70歳代の6838円に比べて、著しく低い状況にあります。一方ペットボトル等の緑茶の飲料は、世代によっての金額の差はなく、お茶の消費の仕方が、急須ではなくペットボトルなどの飲料に変わりつつあります。その理由として、全国各地でのアンケート調査では、急須で淹れるのは面倒だ・難しい、という回答が圧倒的に多いです。

 ペットボトル茶が、日本に定着した30年位前、今では日本の飲料メーカーを代表する「伊藤園」の創業者が、「日本人はいずれ、急須に茶葉を入れ、お湯を注いで湯呑みで飲む、なんて面倒なことはしなくなる。コーラやジュースのように飲料として飲む時代が来る」と開発に着手した。消費者への「思いやり」が、先行投資、つまり目先の利益には結びつかなくても投資を行うことが受益に繋がると思い、当時、急須一辺倒の時代に誰もが考えもしなかった、職業奉仕を実践したのです。

 平成28年度日本食料新聞が臨時増刊した冊子に「食品ヒット賞」に飲料メーカー2社より「ペットボトル茶」が選ばれ、食品では「カップヌードルリッチ」が選ばれました。カップヌードルは毎年のように選ばれており、「お湯を注ぐだけ」で、3分したら出来上がるという簡便性がヒットして、世界中で食べられており2016年3月累計で400億食を超えたそうです。同じく日本食料新聞の「新技術・食品開発賞」に「とんかつの玉子とじ」が選ばれました。これは「お湯を注ぐだけ」でボリューム感のあるメイン料理が完成するというコンセプトがあり、「美味しさと簡便性」を「とんかつ」という領域で実現することができた。昨今は、少子高齢化、共働き世帯の増加など影響もあり、家庭の食卓のシーンは大きく変化している。つまり、一家団欒で、食事をしたり、お茶を飲む機会が少なくなり、個食、個飲が主流となり、これに対応して少量の食事を「お湯を注ぐだけ」で、一食分の揚げ物が出来上がることは、食事を提供する側・食べる側の双方にメリットをもたらした。そこで、今の時代に適応した「カップヌードル」・「とんかつ」みたいに茶葉を湯吞に入れて「お湯を注ぐだけ」で、美味しいお茶が飲めないものかと思いを巡らしていたら、45年前、台湾で「グラスコップ茶」に出会った事を思い出しました。

 当時、日本での「飲料」自体が主に「緑茶」で、急須の無い家庭はありませんでした。10万トン強の大量の消費を支えていたのはアルマイト処理された「やかん(サッカーボウル位の大きさ)」でした。事業所の食堂、官公庁の食堂、学生食堂、工事現場、昼食時は「やかん」が大活躍していました。そこで、国内の生産量だけでは業務用の下級茶が不足する事態となり、昭和47年、当時、日本向け緑茶を製造していた台湾へ社命により、バイヤーとして、赴くことになりました。到着した次の日、昼食時になるとシッパーに当時台北一番店の国賓大飯店の最上階のレストラン(四川料理)へ案内されました。そこで出されたお茶はウーロン茶ではなく、グラスコップに茶葉を入れ「お湯を注ぐだけ」の「緑茶」でした。急須や、やかん、でしか飲んだことのない小生にとって、それはまさに「奇異」でありました。暫くして周りを見渡すと、地元のお客様は平然としてコップのお茶を嗜んでいました。

 そこで最近、ネットで中国のお茶事情を検索してみました。ところが中国でも発酵茶を淹れる「急須離れ」が進み、グリーンの水色がとても綺麗な「緑茶」が楽しめるグラスコップが主流となり、中国茶全体の7割強、緑茶が生産され、主にコップで飲まれています。中国でのお茶の歴史は紀元600年代に全国に広がります。その頃のお茶は、蒸した茶葉を固めて乾燥させた固形茶を、削って粉砕した粉末を、器に入れて、日本の抹茶みたいに茶葉と共に飲まれていました。紀元1400年代にやっと「茶壷」つまり日本の急須が登場します。なんと800年もの長期間、茶葉と共に飲まれていた歴史があります。

 日本でグラスコップ茶を定着させるには習慣を変えることですから、業界全体の理解を得られることが肝心ですので、自らコップに茶葉を入れて実験を繰り返したところ、次の様なことが解りました。大さじ軽く一杯、約3グラムをコップ(約300ml)に入れて、電気ポットで80度設定のお湯を8合目付近まで注ぎます。2分位経ってからカップヌードルみたいにコップの中を攪拌します。これでコップ茶の飲み頃となります。5分位すると3煎まで出し切り、程よく和合して、コクのある美味しい味が楽しめます。そして、業界の方々に相談したところ、日本ではコップや茶漉しの無い喫茶習慣は無いので「湯呑」の飲み口の下の1.5㎝位の所の、横に、三日月形の「茶漉し」を付けるという大多数の意見に基づき、開発を進めることになりました。消費者へ簡便性を提供するという奉仕で、顧客の満足度を優先し、消費拡大に繋げる小生の職業奉仕は始まったばかりです。