私の職業奉仕(出水RC・井立 勝美)

所属クラブ:

氏名:井立 勝美

それはあっと言う間の出来事でした。

サイレンの音がけたたましく市内に鳴り響きます。

濁流は堤防を越え町の中へ流れ込みます。

町と米ノ津川下流域一帯を濁流が襲いました。

それは平成18年7月一週間降り続いた雨とダムの決壊を防ぐために放水された雨水が重なって大洪水を引き起こしたのです。

地盤の低い所では胸までの水嵩で其処等中を浮遊物が流れていきます。

自然の力には抗うことが出来ない無力さを感じました。

住宅も商店街も道路も汚泥で覆い尽くされました。

川内河川流域、大口市、宮之城の商店街等、被害は広範囲に広がっていました。

一夜明け早朝私たちは社員総出で被害状況を確認するために東奔西走することとなりました。実はここからが私共の出番です。私の仕事は保険業です。水は食い止めることはできませんでしたが、いかに早くお客様が元の生活に戻れるかをお手伝いすることです。まずご契約のお客様にお見舞としてタオル10枚とペットボトルをお渡しして回りました。程度の差こそあれ、それは酷いものでした。そこで今自分たちにできることから始めようと、復旧のお手伝いを始めたのです。

 

あるお店では店内の洗い出しをお手伝いしましたが、なかなかはかどりません。洗ってもあらっても泥水が出てきます。お客様の苛立ちとため息が聞こえ、絶望に暮れるお客様を励ましながら作業は続きます。永遠に続くような気さえしました。一軒終わってまた一軒。担当しているお店、住宅等ひとしきり回ったところで当りはどっぷりと暮れていました。着ていた服も泥だらけ、不思議と達成感がありました。「明日も来ますよ」と声を掛けますと年老いたお婆さんが「ありがとう、ありがとう」と言ってもらえます。その言葉でふっと救われた気持ちになりました。

私共は保険を生業としています、「保険を通じて地域社会の安心安全に貢献する」を社是として掲げて活動しています。大それた社是かも知れません。起こるは防げなくても発生した後にいかにお客様に寄り添い一緒に解決のお手伝いができるかだと思っています。

いち早く手分けして調査したことで3日後には鑑定人が実調に入ってくれました。一軒一軒訪問し被害状況を調べて回ります。

我々の仕事は、被害額を確定し、一刻も早く保険金をお支払いでき、結果平常の生活を取り戻して頂くことです。スピードと素早い対応力が要求されます。お支払がスムースにできた時、何よりも嬉しいのは「あの時、勧められた保険に入っていて良かった」と笑顔で答えて頂くことです。

しかし悔やむこともしばしばあります。

気の遠くなるような作業、汚泥の匂いがそこら中に立ち込め、照りつける太陽で干しあがった砂埃が舞い上がります。

そのお店では陳列什器の上まで汚泥が押し寄せ無残にも商品は売り物になりません。

しかし商品は保険は保険に加入してなったのです。

こんな時一番我々が感じる無力さは、もっと必要性をお話しして納得して保険に入って頂いておればと反省しかありません。

万が一、まさかの出来事に備えること、日常生活に潜むリスクを顕在化し知って頂く、そのリスクヘッジの有効な手段の一つとしての保険があることを理解して頂くことが自分たちの職業奉仕であると思っています。

この時私共総額1億円強の被害に対してのお支払いをさせて頂きました。         

ある時、自動車事故で死亡事故が発生してしまいました。

夜道を帰る途中に車に跳ねられる事故です。死亡したのは私共のお客様です。

更改したばかりのお客様で人身傷害保険の3000万円を5000万円に増額して頂いたのです。遺失利益を考えると3000万ではとても補えない額でした。

お金で人の命を換算することはできません。

何より大切なことは世の中の動向をお伝えし保険の中身をしっかり理解してもらうことで、残された遺族の生活を守れることです。

情報をお伝えしなければ後に私共が悔やむことになります。

跳ねた車は無保険でした。相手の対人賠償保険は使えません。よって被害者が増額して頂いた人身傷害保険が力を発揮したということです。

これには後日談がありまして、その事故から数日して当店に相談に来られましたお客様がいらっしゃいました。よくよく聞いてみると、その方は先日の死亡事故の加害者の方でした。遺失利益が私共から払われた額より230万円ほど足りなったということで、裁判になっていました。被害者と加害者から相談を受けてしまったのです。

私共でできる限られたアドバイスしかできません。真剣に生活の実情をお話になるのでほっておくことが出来ませんでした。

今の生活の状況と月々に払える金額とを記した陳情書を保険会社、と裁判所に出されたらとアドバイスする事しかできませんでした。

一昨年の暮れだったと思いますが、その方から突然お電話がありまして

無事に払い終えたとの連絡です。その事故から7-8年は過ぎていたと思いますが、

喜んでいいのか何やら複雑な気持ちになり口から出た言葉は「有難うございました」

としか言えなかったのを思い出します。

お客様は或る時には加害者にもなり被害者にもなります。そのどちらにも真摯に対応していかねばならないと感じました。昨今は悲惨な交通事故が後を絶ちません。自然災害はなかなか防ぐのが難しいですが、人災はちょっとした不注意で起こります。

人災を出来るだけ少なくし、起こった時にいかにお客様の立場に立って考え行動できるかが私の職業奉仕と理解しております。